「わたしのからだは心になる?」展にて、生態系における関係性を拡張していく新プロジェクト Enabling Relations を展示します。

“生き物の体は、常にさまざまな種と関係し合っています。 食べる・食べられるの関係はもちろん、ミツバチが花粉を運んだり、最近の研究では土中の菌が樹木に与える影響とそのネットワークなどにも注目が集まっています。 《Enabling Relations》は、人間がインターネットによって遠隔での交流を実現したように、植物や昆虫同士でも、現代の技術によって物理世界ではありえなかった関係軸を生み出せるかを探求する実験プロジェクトです。 ここではまず、東京都内の街路樹と、土・水・風の流れなどとの関係性を調べます。 次に、別々の場所で生息する植物同士がネットワークをつくる実験を行います。 さらには、人間の活動がそれらの生態系と関わり合うことができるのか、新たな接続のあり方を模索していきます。”

作品の紹介ページはこちら: https://sushitech-real.metro.tokyo.lg.jp/first/exhibition/creator005/
「わたしのからだは心になる?」展の詳細はこちら: https://sushitech-real.metro.tokyo.lg.jp/first/

「Enabling Relations」構想に至るまで

生態系に「別の関係性」を提案するための試み

「間」としての土

植物はその根を通して、土中の微生物と相互作用していることが今から100年以上前に明らかになりました。この相互作用が起こる土壌空間を根圏(rhizosphere)とよびます。また近年では、森の中の木の根同士が土壌内に住む菌糸の力を借りてネットワーク(菌根ネットワーク)を形成し、栄養や情報をやりとりすることで植生が頑強になるという仮説が世間を賑わせました。この菌根ネットワーク自体の有効性に関しては、現時点でも議論が続けられている段階ですが、少なくとも植物と植物の「間」で土壌が共有されていることの有効性は多く示されています。そして生態系においては、このような土壌中のネットワークのように「普段は目に見えない関係性」が重要な役割を担っています。

都市と土

一方、人のつくった都市ではどうでしょうか。日本の都市ではヒートアイランド現象対策や生物多様性回復の名目のもと、様々な緑化計画義務に関する制度・条例が制定されています。東京都では、通称「自然保護条例(東京における自然の保護と回復に関する条例)」に基づき、一定基準以上の敷地における新築・増改築の建物に対して、その敷地内(建築物上を含む)への緑化を義務付けています。また街路樹に関しても、2006年「街路樹の充実」事業以降、都内の街路樹本数は激増し、2016年には100万本を超えました。一方で、このような条例のもと植えられていく植物は、元々植物が育つことが出来ない未熟土壌、あるいは屋上緑化のようにそもそも土壌がなかった場所に外部から土を運搬して植えられているという現状があります。つまり(明治神宮などの例を除けば)、現在の都内の土壌は細かく分断されている状態であると言えます。

明治神宮の森は、今から約100年前、当時最先端の造園学の理論を用いて、広大な荒れ地だった代々木の土地に100年後も森がその植生を変えながらも自律的に生き続けるように計画、実践された人工の森です。現在では天然林と見紛うほどの森となっていますが、1915-20年にかけて全国からの献木を含めて合計12万本の常緑広葉樹を主とする苗木を植栽してから50年以上年月をかけて現在の森となったうえ、その土壌環境はほぼ自然土壌であるという条件のもとにおいてこれだけの年月を必要としました。

それでは、土壌が分断された現在の東京において、ばらばらに植えられた植物たちは100年後も自律的に生き続ける「森」となることができるのでしょうか。そのためには、土壌のつながりも含んだ、動的に変化する関係性を理解し、それに寄り添う技術をつくらなくてはいけません。

関係の可能化

私たちはよく「人間と自然」というような言葉を用いますが、自然の立場からすると私たちの振る舞いも自然現象のひとつであり、生態系という「関係性」に含まれるひとつのノード(構成要素)です。そして、私たち自身もアクティブなノードとなって、この関係性を書き換えていくことができます。

このプロジェクトの最終目標は従来の自然を保護することではなく、自然をアップグレードすることです。私たち人間は、道具を用いることで自らの「身体」を拡張してきました。ならば、私たちの身体や技術を、生態系というあらゆる生命/環境によって構成される巨大なネットワークそのものが道具として利用し、そして生態系自らが関係の可能性を拡張(可能化: Enabling)していくこともありえるでしょう。その拡張のためには旧来の固い技術から、自然と共存できるやわらかい「生命技術」を作り出す必要があります。ここでの試みはそのスタート地点であり、議論の場となっていくことを目指しています。