Hyperself


What is this?

3つの大規模な「関係性」のシミュレーションをリアルタイムで行う装置。それぞれのシミュレーションの中で、様々な形やスケールでの「自己」、「ゴミうんち」が規定されており、誰かにとってのゴミが誰かにとっての身体の一部になるような関係性の構築が行われ続けている。

この装置はシミュレーションを見せるためだけの装置ではない。3つのシミュレーションはそれぞれ1台ずつの独立したコンピュータで動いているが、コンピュータ同士が物理的に過密に設置されているため、各コンピュータの排出する熱(これもゴミうんち)が他のコンピュータのCPUやGPUの温度を上げてしまい、その結果、シミュレーションが変わってしまうようになっている。つまりシミュレーション空間同士は直接的な関係性をもっているわけではないにも関わらず、それを計算するコンピュータそのものが物理的存在であるがために、シミュレーション空間内の住人からすると「不可知」な物理空間の熱によってシミュレーション世界同士が干渉し合う構造になっている。

Title: Hyperself (はいぱーせるふ)
Artist: Alternative Machine
Venue: 21_21 DESIGN SIGHT
Exhibition title: "pooploop" (ごみうんち展)
Date: September 27 (Fri), 2024 - February 16 (Sun), 2025

About the simulations

1. Petri net

このシミュレーションは、20,000個の「プレース」を持つ大規模なペトリネットのリアルタイムシミュレーションである。ペトリネットとは、情報や資源の流れを表現する数学的モデルであり、工場の生産ラインやコンピュータネットワーク、生物細胞内の化学反応など、さまざまなシステムの動きを可視化するために用いられる。 ペトリネットでは、プレース(Place)が状態や条件を表す「場所」を意味し、そこに置かれるトークン(Token)は資源や情報、あるいは細胞内での分子やイオンを表す。これらのトークンがプレース間を移動することで、システムの状態が変化する。 例えば、生物細胞内の化学反応では、プレースは特定の分子やイオンの存在状態を示し、トークンはそれらの分子やイオン自体を表す。トランジション(Transition)は化学反応を表し、必要なトークン(反応物)が揃うとトランジションが発火し、新しいトークン(生成物)を生み出す。これにより、細胞内での複雑な化学反応のプロセスを動的にモデル化できる。 今回のシミュレーション(大画面)においては黄色の丸がトークンを表しており、青がトークンが減少している状態を赤が増加している状態を表している。

このシミュレーションは、並行処理(Concurrency)に特化したプログラミング言語であるErlang(アーラン)やElixir(エリクサー)によってコーディングされている。並行処理とは、複数個の処理を共通の期間内で独立に実行する能力である。そのため、このシミュレーション内ではすべてのプレースとトークンが同時に動作している。 さらに、新しいトランジションが随時生成され、トークンを処理できないトランジションは削除される。これにより、ネットワーク全体が動的に変化していく。

ネットワークの生成や変化は、コンピュータの処理能力が許す限りの速度で行われるため、物理的なハードウェアがシミュレーションの挙動に直接影響を与えている。

2. Reaction Diffusion

このシミュレーションは、反応拡散系の一種であるGray-Scottモデルを拡張したシミュレーションである。

反応拡散系とは、化学反応と拡散を組み合わせた数理モデルであり、空間的に複雑なパターンや動的な現象を説明するために使わる。このモデルは、生物の皮膚の模様(例えばシマウマの縞模様やチーターの斑点)、化学反応の波動現象、生態系のパターン形成など、自然界で観察される多くの現象を理解する上で重要なモデルとなっている。

オリジナルのGray-Scottモデル(1983)では、uとvの2種類の物質が反応し、パターンを形成する。しかし、今回のシミュレーションでは30種類以上の物質が反応し合い、その反応ネットワークが進化していく。 また、オリジナルのモデルでは、物質の流入(外部からの供給)と流出(外部への排出)が存在し、システム内で生成された副産物や不要な物質がブラックボックス(詳細が不明な部分)となってしまう。そこで、この作品では物質の流入と流出をゼロに設定し、閉じたシステム内での反応をシミュレートしている。 パターンが動き続けているということは、物質間の反応が連鎖的に続いていることを示している。一方、30種類の物質のうち動きがなく収束しているものは、反応の連鎖から外れ、使われなくなった不要な副産物と考えることができる。

3. Tape and Machine

このシミュレーションは、橋本敬と池上高志による1997年の論文「Coevolution of machines and tapes」を拡張したシミュレーションである。テープとマシンが相互に作用し、新しいテープを生成するプロセスを表現している。 オリジナル論文は、とTape(設計図)とMachine(Tapeの読み取り機)のネットワークモデルにおける自己言及のパラドックスおよび自己複製問題を論じている。このモデルは、シンプルなルールセットで自己複製や進化的な振る舞いを示し、複雑なパターン形成や自己組織化を可能にしている。

今回のシミュレーションでは、テープは0と1のビット列で構成されており、ビット長が16以上のテープはマシンとして機能し、他のテープを読み込み新しいテープを生成できる。マシンはヘッドパターン(4ビット)、テイルパターン(4ビット)、トランジションルール(8ビット)をコードしており、これらに基づいてテープを変換する。 あるテープが自分自身と同じパターンのテープを生成する場合、それは自己複製となる。直接的に自己複製できなくても、テープの生成が連鎖的に続くことで、最終的に自分と同じパターンが生成されることがある。このような循環によって、より大きな自己組織化が生まれる可能性がある。

オリジナルモデルとの主な違いとして、テープとマシンの区別がなく、長いビット列のテープはマシンとして機能できる点が挙げられる。また、テープはルールに基づいて長さを変化させることが可能であり、1ビットのアトムに分解される。ビット数は全体として保存されているため、余分なアトムがないと新しいテープの生成はできない。このように、システム内の資源が有限であることを示し、資源の制約下での自己複製や進化のプロセスを観察できる。

Credit

ディレクション:
升森敦士 (Alternative Machine)
アートディレクション:
土井樹 (Alternative Machine)
ALifeシミュレーション設計開発:
池上高志、升森敦士、丸⼭典宏 (Alternative Machine)
テクニカルサポート:
johnsmith (Alternative Machine)

Alternative Machine Inc.